【第5回】チューター制度
「人がいない」から始める地域の文化活動
— チューター制度という新しい関わり方
「地域で文化活動の場をつくりたい。でも、指導できる人がいない…」
これは、私たちが現場で最も多く耳にする課題のひとつです。
中学校の文化部が学校の中で縮小・再編されていく中、「では地域で」と思っても、いきなり“先生の代わり”を担える大人を見つけるのは簡単ではありません。
特に、吹奏楽や合唱のように専門性が求められる活動では、なおさらです。
そこで私たちこどもゆめひろばが取り入れているのが、「チューター制度」という考え方です。
「教えない」から始めてみる
チューター制度とは、地域の大人たちが“指導者”ではなく、“共に活動する存在”として関わる仕組みです。
チューターとして参加してくださるのは、たとえば:
- 地域の吹奏楽団や合唱団で活動しているアマチュア奏者
- 昔、楽器や歌を経験していた保護者や地域住民
- 音楽が好きで、子どもと関わりたいと思っている大人の方
こうした方々に、私たちから事前に趣旨説明や簡単な研修を行い、活動に参加していただいています。
そして、私たちが必ず伝えるのは、
「教えなくて大丈夫です。隣で一緒に練習してくれるだけでいいんです」ということ。
主体はこども、大人は“隣の先輩”
大人が教える場になると、どうしても子どもは受け身になりがちです。
一方で、同じ空間で、近くで演奏したり歌ったりしている大人の姿があるだけで、子どもたちは自然と真似し、吸収し、質問をするようになります。
チューターは“教える先生”ではなく、“ちょっと先を歩く先輩”のような存在。
その距離感が、子どもたちの主体性と安心感の両方を育てるのです。
「自分なんかが役に立つのか」と感じる方へ
参加をためらう方の多くが、「自分は人に教えられるような技術はない」と仰います。
でも、私たちは「教える力」ではなく「一緒にいる力」を必要としています。
- 楽器が出来なくても、楽器の運搬や譜面の整理なども立派な支援
- 楽器があるなら一緒に音を出す、音取りを助けるだけでも十分
- 子どもの小さな疑問に答えたり、困っていたら声をかけるだけでも価値があります
誰か一人がすべてを担うのではなく、「できる人が、できることを、できる範囲で」関わることが、地域で続けるコツだと感じています。
子どもと大人が一緒に学ぶという文化
私たちが目指しているのは、技術の高い指導ではなく、音楽や文化活動を通じて“共に育ち合う場”をつくることです。
- 大人も知らないことがある
- 子どもが先にできるようになることもある
- 練習の合間に交わされる何気ない会話から学びが生まれる
そんな関係性が、学校とは違う学びと育ちの場を地域につくっていきます。
次回は…
次回は、もう一つの大きな課題である「場所」と「費用」、そして地域の巻き込み力について。
文化活動を“続けられる仕組み”にするために、私たちが取り組んでいる工夫をご紹介します。
「人がいない」から始まる地域活動でも、一緒に考えていきましょう。
子どもたちが安心して活動できる場は、あなたがほんの一歩踏み出した先にあります。